ブランド構築は、起業する上で欠かせない重要なステップです。どれほど優れたアイデアや製品があっても、それが顧客の心に届かなければ意味がありません。特に、ターゲット層が共感しやすい伝え方を意識することが、ブランドの印象を大きく左右します。
このガイドでは、ブランドをゼロから作り上げたい方に向けて、ターゲット層に響く、魅力的で一貫性のあるブランドを構築する方法をご紹介します。
ブランド構築とは

ブランド構築とは 、独自の役割を創り出し、できるだけ多くの人にできるだけ強く感情移入してもらうための取り組みを指します。 ブランド構築は、一人が行うのではなく、商品開発部門、営業・販売部門・デジタル部門・顧客サービス部門など、多岐にわたる部門との調整や協力を経て、初めてその成果がもたらされます。
ブランド構築に欠かせない5つの基本要素

1. ターゲット層
ブランドをゼロから作るとき、「誰のためのブランドなのか」を明確に定義することが何より重要です。ターゲット層がはっきりすれば、その人たちの心に届くブランドメッセージを伝えやすくなります。
2. ブランドアイデンティティ
ブランドアイデンティティとは、「そのブランドらしさ」を形作るすべての要素を意味し、具体的には、ロゴマークや使う色、写真のスタイルなどといった視覚的要素のほか、SNSのアカウント名、ブランドのストーリー、独自の強みなどが含まれます。

河村刃物株式会社は、Webサイトやカタログ全体において、色使いや写真のテイスト、フォントを統一させ、ブランドイメージの一貫性を保っています。
3. ブランドボイス
ブランドボイスとは、ブランドが使う「言葉のトーン」や「文体」のことです。これを明確に定義し、WebサイトやSNS、広告など、あらゆる場面で一貫した表現を使うことで、ブランドとしての統一感が生まれます。
たとえば親しみやすさを大切にするブランドでは、SNSだけでなく、Webサイトや広告にもユーモアを交えた率直な語り口を反映させることで、すべての接点でブランドらしさが伝わり、顧客との距離が縮まりやすくなります。
4. ブランドの使命と価値観
ブランドの使命は、ブランドが目指す方向性や存在意義を示すもので、価値観は、ブランドが日々の活動の中で大切にする考え方や姿勢を示すものです。いずれも、ブランドにとって意思決定のよりどころとなるものです。
使命と価値観の両方を明確にし、一貫して体現することで、ブランドの信頼性と説得力が高まり、強いブランドイメージを築くことができます。

ニッスイは、「ミッション=ブランドプロミス」と銘打つページを企業Webサイトに設け、自社の使命を明記しています。
5. スタイルガイド
スタイルガイドとは、ロゴやフォント、ブランドボイス、トーンなど、ブランドを一貫して表現するためのルールをまとめた文書です。すべてのプラットフォームやチャネルでブランドのイメージやトーンを統一するための、表現面における具体的な基準となります。これは、ブランド構築に必要な要素を体系的にまとめた「ブランドガイドライン」の一部として位置づけられます。
ブランド構築に向けた7つのステップ

1. ターゲット市場を調査する
市場や顧客を正しく理解するため、まずはターゲット市場を調査しましょう。どんなに優れたブランド戦略も、誰に向けてどんな価値を提供するかが明確でなければ、効果を発揮しません。たとえば、顧客の好みを知らなければ、適切なブランドロゴは作れません。競合を把握していなければ、自社ならではのブランドの個性を打ち出すことも難しいでしょう。
具体的には、以下の方法で市場を調査します。
- 自社の商品やサービスに関連するキーワードでGoogle検索を行い、直接的・間接的な競合をリストアップする
- 想定されるターゲット層にヒアリングし、どのブランドを選んでいるか、選んだ理由は何かを尋ねる
- ターゲット層がSNSでフォローしているブランドやインフルエンサーをチェックする
- 実際にオンラインや店舗で買い物をして、顧客がどんな視点で商品を見ているか、何を基準に選んでいるかを観察する
- 業界誌やSNS、Googleトレンドなどを活用して、業界のトレンドを把握する
2. ブランドガイドラインを作成する
ブランドガイドラインは、「ブランド構築に欠かせない5つの基本要素」を文書化してまとめたもので、ブランドの拠り所になります。一貫したブランドイメージを実現するために、この文書には、ブランドロゴやWebサイトなどのビジュアル表現だけでなく、ブランドボイスやトーンといった言語的なスタイルも含め、ブランド構築に関わるさまざまな指針やルールが定められています。
ブランドガイドラインを適切に作成することで、以下の効果が期待できます。
- スタッフ、フリーランサー、小売パートナー、代理店と共通認識を醸成する
- スタッフ採用やトレーニングを効率化する
- 顧客とのあらゆる接点において、ブランド表現の一貫性を確保する
- トラブル発生時の対応の指針として活用できる
3. 会社名を選ぶ
次に会社名を選びます。他の企業(特に同業他社)にすでに使われていないことを確認しつつ、SNSのアカウント名やWebドメインとして利用可能かもチェックしておきましょう。また、ブランドや製品のイメージに合っていることや、覚えやすく他と混同されにくいことも重要なポイントです。
ブランド名を考える際には、以下の方法がよく使われます。
- 新しい単語を作る(例:WEGO(ウィゴー))
- 業界や製品に関連しない単語を採用する(例:ミシンのブラザー工業)
- 暗示的な単語や比喩を使用する(例:セブンイレブン)
- 文字通りに説明する(例:靴下屋)
- 単語の文字を変更したり、削除したり、追加したりする(例:トイザらス)
- 長い名前から略語を作成する(例:JALはJapan Airlinesの略)
- 2つの異なる単語からなる造語を使用する(例:ユニクロ「Uniqlo」はunique + clothing)
- 自分の名前を使用する(例:マツモトキヨシ)

グリコの社名は、子どもたちの健康のために、栄養素であるグリコーゲンを豊富に含んだ栄養菓子を開発する決意を表現しています。
4. ブランドストーリーとスローガンを作成する
ブランドの核となるメッセージを言語化するには、ブランドストーリーとスローガンの作成が欠かせません。
ブランドストーリーは、ビジネスの「自伝」のようなものであり、ときには創業者自身の物語でもあります。こうした物語に共感した顧客は、ブランドに高い価値を見出してそのファンとなり、ブランド成長の推進力となっていきます。このため、ブランドストーリーには、人々の心を揺り動かし共感を呼び起こすようなメッセージを盛り込むことが重要となります。

モンシェールのブランドストーリーは、創業時からの人気商品「堂島ロール」の誕生秘話を中心に展開されています。
ブランドストーリーを作成したら、印象に残るスローガンを次に作成すると良いでしょう。優れたスローガンは、短く、キャッチーで、強い印象を残すものです。スローガンは、ブランド名と切り離されても顧客に認識されることがあり、ブランドの認知度を高める効果があります。
スローガンの表現方法には、以下のパターンがあります。
- 主張を入れる(例:日立「Inspire the Next」)
- 比喩を使う(例:サントリー「水と生きる」)
- ターゲット層に語りかける(例:ファミリーマート「あなたと、コンビに、ファミリーマート」)
- 韻を踏んでリズムを出す(例:インテル「インテル入ってる」)
- 価値観や意識を提示する(例:マスターカード「お金で買えない価値がある。買えるものはマスターカードで」
5. ブランドパーソナリティとブランドボイスを設定する
ブランドの「性格」にあたるブランドパーソナリティと、「声」にあたるブランドボイスを明確にすることは、顧客との信頼関係を築くうえで欠かせません。ブランドボイスとは、ビジネスの個性や顧客とのコミュニケーションの在り方を示すもので、ブランドが発信する言葉の調子や語り口を指します。一方、ブランドパーソナリティは、ブランドを人にたとえたときの性格や態度を表し、「そのブランド独自の個性」として表現されます。
万人受けを目指すのではなく、語り口や個性をはっきりと打ち出すことでコミュニケーション全体に一貫性が生まれます。その結果、ターゲット層の共感を呼び、強い結びつきにつながります。ブランドパーソナリティとブランドボイスを明確にするためには、次の3つのステップを順に実施することが効果的です。
①ポジショニングステートメントを作成する
ポジショニングステートメントとは、ブランドが市場でどのような立ち位置(ブランドポジショニング)をとり、誰に、どんな価値を提供するのかを明確にするための1〜2行の短い文です。これはブランド全体の方向性を定める「舵取り役」となる重要な要素です。このステートメントを明確にしておくことで、
- ブランドが「何者であるか」
- どのようなトーンや語り口で語りかけるべきか
といった要素をブレずに言語化できるようになります。つまり、ブランドパーソナリティやブランドボイスを考える際の判断基準を与えてくれるのが、ポジショニングステートメントなのです。
ポジショニングステートメントは、次のテンプレートを使用すれば簡潔かつ明確にまとめることができます。
「私たちは、[製品/サービス] を [ターゲット市場] に提供することで、[バリュープロポジション] を実現します。また、競合他社にはない [差別化要因] で選ばれています。」
②ブランドを擬人化して特徴を言語化する(ブランドパーソナリティを設定する)
ブランドを一人の人物にたとえることで、その性格や雰囲気をより具体的に言語化することができます。その人物はどのような性格を持ち、顧客にとってどのような魅力を備えているでしょうか。親しみやすい人なのか、頼りがいがあるのか、洗練された印象なのかといった観点から人物像を描き出すことで、ブランドのパーソナリティがより明確になります。
③ブランドの語り口を具体化する(ブランドボイスを設定する)
ブランドボイスは、顧客にどのような印象を与えたいのか、ブランドとして何をどのように伝えたいのかを明確にするための要素です。①と②で得られた洞察を基に、ブランドがどのような語り口でメッセージを伝えるのか(=ブランドボイス)を言葉で具体的に定義していきます。
6. ロゴやその他のブランドビジュアルをデザインする
次に、ロゴやブランドカラー、フォントなどのビジュアル要素(ブランドビジュアル)を決めていきましょう。こうしたビジュアルに関わる要素は、上で紹介したキャッチコピーやブランドストーリーと同様、ブランド構築に欠かせないものです。
ロゴ
基本ルール:
- シンプルで視認性の高いデザインにする
- 白黒や単色でも認識可能なロゴ設計にする
- さまざまな用途で使用できるように、複数のデザインを考える
- ブランドの個性を反映したロゴタイプを選ぶ(例:アイコン型、文字型、マスコット型、エンブレム型など)
- 文化・文脈による誤解が生じないようなデザインにする
活用のヒント:
- ShopifyロゴメーカーやCanvaで自作も可能
- ブランド全体の世界観に合ったロゴをプロに依頼するのも有効

ソフトバンクは、シンプルな文字型のロゴをWebサイトや広告で使用しています。
ブランドカラー
基本ルール:
- 白や黒の文字が見えづらくならないよう、選んだカラーとのコントラストを確認する
- メインカラーは1〜2色に絞り、アクセントカラーは用途に応じて使い分ける
- 色が与える印象(信頼・活力・温かみなど)を考慮して選ぶ
活用のヒント:
- ブランドの価値観やストーリーに色を結びつけると印象に残りやすい
- カラーコード(HEX・RGBなど)を定義すると制作や外注時の色ブレを防げる

老舗宇治茶専門店の祇園辻利は、抹茶の色をブランドカラーとして、商品やデザインに積極的に取り入れています。
フォント
基本ルール:
- 見出し用と本文用でフォントを使い分ける
- 読みやすく、癖のない書体を選ぶ(装飾的フォントの使用はロゴなどに限定する)
- ブランドのトーン(信頼感・カジュアルさ・上質さなど)と調和するフォントを選定する
活用のヒント:
- Webや印刷など、どの媒体でも視認性が保たれるフォントを選ぶと汎用性が高い
- 各フォント使用のルールをスタイルガイドにまとめておくと、一貫性を保ちやすくなる

旅情報メディアことりっぷは、見出しのフォントと、ナビゲーションと本文フォントを使い分けています。ロゴのフォントもユニークです。
7. ビジネス全体でブランド表現を一貫させる
最後に、これまで決めたブランド表現を、顧客と接するあらゆる場面に一貫して反映させることが大切です。TikTok広告やInstagram広告などのSNS広告、実店舗、メールなど、すべての接点でブランドのトーンやビジュアルが統一されていれば、顧客の記憶に残りやすくなり、ブランドへの共感や信頼を高めることができます。


無印良品ではブランド体験の一貫性が徹底されており、店舗の雰囲気、接客スタイル、SNS投稿、アプリ体験などすべてが統一されています。
まとめ
一からブランドを構築する方法やブランドの構築要素、ブランドを構築するためのステップをご紹介しました。
ブランド構築は、顧客の心にブランドアイデンティティを記憶させる、継続的なプロセスです。ブランドの構築要素をしっかり設定し、作成したブランドガイドラインに従いながら、7つのステップに沿って戦略的にブランド構築を成功させましょう。7つのステップには、ターゲット市場の調査、ブランドガイドラインの作成、会社名の選択、ブランドストーリーとスローガンの作成、ブランドパーソナリティとブランドボイスの設定、ロゴやその他のブランドビジュアルのデザイン、ビジネス全体でのブランド表現の一貫性維持が含まれます。
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よくある質問
ブランド構築に欠かせない要素とは?
- ターゲット層
- ブランドアイデンティティ
- ブランドボイス
- ブランドの使命と価値観
- スタイルガイド
ブランドを構築するにはどのようなステップを踏むとよいですか?
- ターゲット市場を調査する
- ブランドガイドラインを作成する
- 会社名を選ぶ
- ブランドストーリーとスローガンを作成する
- ブランドパーソナリティとブランドボイスを設定する
- ロゴやその他のブランドビジュアルをデザインする
- ビジネス全体でブランド表現を一貫させる
ブランドアイデンティティとは何ですか?
ブランドアイデンティティとは、「そのブランドらしさ」を形作るすべての要素を意味し、具体的には、ロゴマークや使う色、写真のスタイルなどといった視覚的要素のほか、SNSのアカウント名、ブランドのストーリー、独自の強みなどが含まれます。
文:Non Osakabe